壁ごしのプロポーズ?
銭湯の湯船で、ぼんやり湯気を眺めていると、壁の向こうから女性の声がした。
「……もう、覚悟はできてるから」
湯けむりより胸が熱くなる。
覚悟?何の?
「これからの人生、一緒に……」
昨日スーパーでリンゴを拾ってくれたあの人、声が似てる……まさか俺に?
鼓動が早まる。俺は湯船から少し立ち上がり、耳を澄ました。
「お父さんの介護、私がするから」
(ズコッ……湯船に沈む)
勝手に恋の予感を作って、勝手に砕け散った俺……
風呂上がり、脱衣所の自販機でコーヒー牛乳を買い、一気に飲み干す。
「フッ、これだけは裏切らないな」
甘さとほろ苦さが、湯気より深くしみた。
帰り際、番台のおばちゃんが心配そうに。
「あんた、しょっちゅう湯船に沈んでるけど、大丈夫かい?」
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