死者からのメッセージ
死者からのメッセージ
Barマスターに宿る特別な力
Bar を営む村山さんは、およそ10年前にある能力に目覚めたという。お盆の時期になると、あるものが見えるように。
村山さん曰く、客の顔の前にモニターらしきものが視える。半透明のモニターが顔の前に映り、それは非現実的な光景で、ある客のモニターには、唐揚げが映る。村山さんは意味が分からず戸惑う。すると、次の客が店に入りまたしてもモニターが顔の前にあり、そこにはハンバーグが映っている。更に次の客には、日本酒が。来る人来る人全員の顔にモニターがあり、それぞれ異なる食べ物が映っている。
村山さんは、何か意味があるのかと思い客に探りを入れてみる。唐揚げが映る客に。
「お客さん、鶏の唐揚げの事を考えてますか?」
客は不思議そうに答える。
「え、鶏の唐揚げ?いや、別に」
村山さんは質問を続ける
「それじゃ、鶏の唐揚げで思い浮かぶ人は居ますか?」
客は暫く考えた後、思い出したかのように。
「そう言えば、無くなった親父の好物が鶏の唐揚げだった」
すると、その客の顔にあったモニターが消えた。村山さんは残りの客に対しても同様の質問をし、客が思い出すとモニターが消えていく。どうやら顔の前に現れる飲食物は、身近な人の好物らしい事が分かった。村山さんはお盆という時期を踏まえて、故人が好物のお供えを望んでいるのでは無いかと思い始めた。
顔の前のモニター画像は、無くなった人との関連が分かると消えていった。ところが……、次に入ってきた客には飲食物では無く、ピンクの花だった。
村山さんは、質問を試みる。
「お客さん、ピンクの花に心当たりありますか?」
その女性客は訝しげに答えた。
「ピンクの花?桜ですか?」
花に詳しく無い村山さんは、なんとか伝えようと言葉を探しながら言った。
「いや、桜では無くて、ちょっと花には詳しく無いので名前はわからないんですけど……あっ!そうだ、失礼ですがご家族で亡くなられた方はいらっしゃいますか?」
それに対して女性客が答えた。
「去年、父が亡くなってます」
村山さんは、彼女に告げてみた。
「変なことを言うかも知れませんが、そのお父さんがピンクの花を仏壇にお供えして欲しいと言っています」
女性客は、半笑いで答えた。
「父が?ピンクの花?」
村山さんはスマホで同じ花を探し、その画像を彼女に見せた。
「こ、これです!ピンクのガーベラ?これに見覚えは?お父さんが大切にしているものだと思うんですけど……」
しかし……、彼女は心当たりが無さそうに。
「いや、やっぱり分かりません」
村山さんは諦めて引き下がった。
「そうですか……でも、お母さんや家族に聞いてみて」
(翌日)
昨夜の女性客が涙を流し入店した。
村山さんは驚き、心配して言った。
「お客さん、どうしました?」
女性客は泣きながら言った。
「マスター、昨日はありがとうございました!実は昨日、マスターに言われたことを母に伝えたんです」
昨夜、帰宅した彼女はピンクのガーベラの写真を母親に見せた。すると、娘のスマホを手に取り写真に釘付けになった。母親の目から涙が溢れた。
「嬉しい、あの人……覚えていてくれたんだ」
不思議に思った娘が尋ねる。
「どういう事?」
心配そうに見つめている娘に説明した。
「このピンクのガーベラはね、私がお父さんからプロポーズを受けた時に貰った花なの。本当にお父さんが、いま近くにいるんだ」
そう言って母親は涙を流しながら嬉しそうに笑った。
その年は、故人の新盆であったという。
――『真夏の怪奇ファイル』2025 (テレ東)より
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